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◇ お仕事頑張りますっ 86

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-04-22 10:20:23

86

◇花と相馬コンビ

 花が相馬の仕事を補佐するという業務に付いてから3週間が

経とうとしていた。

 当面の仕事として書類整理、電話対応、PCでのデータ入力、資料作成

など少しずつ係わらせてもらっている。

 相馬さんの指導は丁寧で性格のやさしい人らしく説明はいつも穏やかで

感じの良いもの言いだ。

 今取り掛かっている仕事が一息付いたのか、珍しくすぐ側にある

ブースへ誘われた。

「掛居さん、ちょっといいかな、ブースまで」

 指でブースを指す相馬さんから声を掛けられた。

「はい、大丈夫です」

「掛居さん、どうですか僕との仕事、やっていけそうですか?

 何か改善してほしい点とかあったら忌憚なく言ってほしいんだけど」

「相馬さん、お気遣いありがとうございます。

 今のところ大丈夫です。

 相馬さんのご指導が丁寧なので助かっております」

「ほんとに? 本心?」

「相馬さん、これまでいろいろご苦労があったみたいですがそれで

私にもものすごく気を遣われてるのでしょうか?

 こんなこと、まだ知り合って間もない私が言うのもおこがましいのですが」

「ええー、掛居さん、何言おうとしてんのかなぁ。怖いんだけど」

「ふふっ、前振りの仕方がよくなかったでしょうか?」

「いやまぁ、それで言いたいことは何かな? 聞くけど」

「折角ブースでお話できる機会に恵まれましたので雑談などをと

思いまして。駄目?」

 すごいなぁ~掛居さんは。

 チャーミングに雑談を誘うなんて、いけない女性《ひと》だよ、まったく。

「こっ怖いんだけどぉ~」

「少しだけ、お願いします。

 いろいろと派遣の人たちから聞いていて、噂だけじゃあ何が真実か

分からなくて、相馬さんの口から分かることだけでも聞けたら今後の

私の仕事の仕方なども方向性が見えるかなと思うので。

 何故こんな野次馬とも取れることを聞こうって思ったかというとですね、

私は相馬さんの仕事を実力をつけてもっともっとフォローしたいと

考えてるからなんです。

 私も人の子、明日何があるかなんて分からないので100%の確約は

できませんが正社員でもありますし、できれば腰掛的にではなく長期に亘り

こちらの仕事を続けられればと思ってます」

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    122「ちょっと疲れてたからしばらくの間掛居さんにお願いして休憩してたのよ。いらっしゃい、遠野さん。 この間はご希望に添えなくて申し訳なかったわね」「いいえ、気にしないでください。 社内規定なら仕方ないです。 今日は私も掛居さんと同じように凛ちゃんパパに『お疲れさまです』って声掛けさせていただいてもいいですか?」「3人もの美女から声掛けされて凛ちゃんパパも少しは疲れが取れるかしらね」 芦田さんが当たり障りのない対応をしていると、ちょうど注目の的……相原さんが登場。 すると、私が抱いていた凛ちゃんを芦田さんに渡そうとしたのを遠野さんが急に横から強引にもぎ取り、驚いている芦田さんと私をよそに、まるで今日の保育を担当していたかのように振舞うのだった。「お疲れさまです。凛ちゃん、今日もいい子でしたよー」 そう言うと自ら凛ちゃんを相原さんに渡した。 驚いたものの、芦田さんと私も声を揃えて凛ちゃんパパに『お疲れさまでした』と労いの言葉を掛け見送った。 彼が部屋から出て行くと遠野さんは「勝手なことをしてしまい、すみません。次からはもうしませんので」と芦田さんに告げ、私には何も言わず帰ってしまった。「呆れた。さてと、掛居さんもお疲れさま。 また来週もお願いします」「はい。芦田さんもお疲れさまでした。お先に失礼します」 社屋の出口に向かって歩いているとスマホが鳴った。 相原さんからのメールだ。「今日も送るので駐車場で待ってる」と言ってくれている。「もしかすると遠野さんが見張っているかもしれないので、今日は電車で帰ることにします。折角なのにごめんなさい」 私は社屋《自社ビル》を出たところで返信を返した。「分かった。また連絡するよ、お疲れさま」「はい、気をつけて帰ってくださいね」

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇押しまくりの遠野 121

    121     週明け出勤後、何となく私は遠野さんのことが気になってしようがなかった。 芦田さんに直談判に行ったという遠野さんだったが、その後ニ度ほど一緒に昼食を摂った時も小暮さんがいたせいかもしれないけど相原さんや芦田さんの名前が出ることはなかった。 彼女は唯一のとっかかりを失くしてアプローチを諦めたのだろうか。 そんなふうな思いを抱いて1週間……。 また金曜の夜間保育の日がやってきた。 別段相原さんから緊急連絡は入ってないので今日も彼は20時頃凛ちゃんを迎えに来るだろうと予想し、私は19:40頃になるとなるべく早く帰れるように凛ちゃんの様子を見ながら周囲を見回して片付けを始めた。「掛居さん!」 声のする方を振り向くと作り笑いを顔に貼り付けた遠野さんの姿があった。『えっ!』 私は言葉が出なかった。「私、夜間保育は仕事としては入れなかったの。 それで一度は諦めたんだけど、よく考えてみたら相原さんにアピールするのが目的なんだから保育要員じゃなくてもいいんじゃないかって気付いたんです。 掛居さんとは同じ職場で働く者同士、知り合いなのだし……。 だから掛居さんの様子伺いに来ました」 だから? 私は彼女の意図するところがよく分からなかった。 私の様子伺い? だけど、もう少しで残業も終わるっていう今頃になって? 『ハッ!』そういうことか。 相原さんのお迎えの時間に合わせて来たっていうことなのね。 すごいぃ~、遠野さんって真正の肉食系女子だったんだ。「様子伺い……って、あともう少しで業務も終わりよ」「相原さん、20時には来ますよね?」「たぶん……ね」「私も掛居さんと一緒に見送りしたいなぁ~」「いいけど、大抵私はほとんど話すことはなくて、芦田さんの横に立って『お疲れさまでした』って言うだけなの」 私がそう言うと遠野さんは部屋の中をぐるりと見渡して探った。「でも、今日は芦田さん、いないみたいだけど」 遠野さんが私にそう言うやいなや、いつの間にか芦田さんが起きていたようでタイミングよく、私の代わりに遠野さんへの返事をしてくれた。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇アッシーを失くしそう 120

    120     「いえ、別に私はそういうのは……」「ええ、ええ。分かってます。 私の勝手な言い草だと思ってスルーしてね。 あぁ、面白がったりしているわけではないことだけは分かってね。 ただの私の勝手な想いなの。 もう恋愛なんてっていう難しいお年頃になっちゃったので、自分を可愛らしい掛居さんに置き換えて妄想して楽しんでるだけ。 私じゃあ相原さんのお相手には絶対なれないから、ふふっ」「可愛らしいだなんて……ありがとうございます、ふふっ。 じゃあこれからかわゆい凛ちゃんの子守、代わりますね」 芦田さんが奥でゆっくりしている間、私は凛ちゃんに読み聞かせをしたり、積み木をしたりして凛ちゃんパパを待っていた。 凛ちゃんが待ちくたびれて私の膝にチントンシャンと座り指吸いを始めた頃、待ち人《相原さん》からメールが入った。『帰りに送るので駐車場まで来て。 車種はトヨタのプリウスで色はホワイト。 一緒は掛居さんのほうがまずいだろ?  俺と凛は先に乗って待ってるから。 え~と車は2列目の左から5番目だから』 すごいモテてる相原さんから送ってあげるよとのオファーがあり、芦田さんや遠野さんの顔がチラチラ浮かんでちょっとビビった。 先に乗って待ってるってすごいなぁ~。 こういうふうに気遣いのできる人なんだ。          ◇ ◇ ◇ ◇ 保育所までお迎えに来た相原さんに、少し前に奥のスペースから起きてきていた芦田さんが声掛けをして凛ちゃんを手渡し、芦田さんと私から『お疲れ様でした』の声を掛けられ、相原さんはいつものように部屋をあとにした。 すぐあとを追うことになっている私は気持ち、ギクシャク感半端なかったけれど、その辺を片付けるとすぐに自分も芦田さんに挨拶をして部屋を出た。……ということで、凛ちゃんが寝ている側で他愛のない話をして私たちは一緒に帰った。 車で帰れるなんて、それも人様に運転してもらって、タクシーでいうならお客様状態。 楽チン過ぎて電車通勤が嫌になりそ。『あーっ、やっぱり遠野さんの話、聞きたくなかったなー。 遠野さんお願いだから私を恋愛事に巻き込まないでよねー』 私はその夜寝る前にお祈りをした。 でもあれよね、遠野さんに狙われてもしも相原さんが陥落するようなことにでもなれば、もう今日のように車で送

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇遠野の強引な片思い 119

    119  「こんばんは」「あぁ、掛居さん、ちゃんと来てくれて良かったわ」「……」 「いやぁあのね、週初めに遠野さんから掛居さんに代わって夜間保育を やらせてほしいってお願いされてたのね。  それで何気にまたなんでそういう気持ちになったのか訊いてみたの。 そしたら夜間保育には必ず相原さんのお子さんがいるっていうことを 掛居さんから聞いたのでって彼女が言ったの。 その時は私も全然遠野さんの意図が読めなくて何も考えず 『凛ちゃんのファンなの?』って訊いたの。 後々考えてみたらピンとこない私もアレなんだけど 『いえ、いや、そうなんです。凛ちゃんも可愛いし、でも私は 凛ちゃんのお父さんとも親しくなれたらと思っています』 って遠野さんに言われちゃって。 気が回らないというか、私としたことか迂闊だったわぁ~。 掛居さんは一連の遠野さんの言動っていうか、ふるまいというか、気持ち知ってたのかしら?」 「はい、一応。夜間保育したくて立候補するけどいいか、ということは 話してもらってました。 でもその後の結果というか報告は聞いてなかったので 今日いつものようにこちらへ来ました。 あの……遠野さんの要望はどうなったのでしょうか?」 「私ね、遠野さんから話を聞いて、ここは彼女のために応援するべきかどうか 悩んだのだけど、なんかねぇ、彼女のことをよく知らないっていうのも あって応援する気になれなかったの。 それでお断りしたわ。 私は掛居さんのガツガツしていないところが好き。  相原くんのお相手が掛居さんだったなら応援する」  きゃあ~、芦田さんったら何を言い出すんですかぁ~、私は反応に困った。

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